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猫甘祭り (前編) <5周年記念SS>






















カラン

「こんにちはー」

香が挨拶をしてキャッツの中に入れば、そこにいるのは美樹だけで、その美樹もフンフン♪と何かを描いているようで、香が来たことにも気付いてないようだ。
いつものスツールに座り、もう一度、美樹に躊躇いがちに声をかければ

「えっ?あぁ、香さん。いらっしゃい。いつものでいい?」
「ええ。お願いします」

美樹は何かを考えながらもコーヒーを淹れはじめる。

「ねぇ、美樹さん。何か悩み事でもあるの?大丈夫?」
「・・・ん?何?何か言ったかしら」

やっぱり上の空のようだ。
いつも笑顔でいる美樹がこんなに悩んでいるのを見るのは初めてのことで、香は美樹を見つめる。

「はい」

香の前にコーヒーが置かれて、美樹は考えて何かを思いつくと紙に書きつけていく。
それを見て、香は美樹にまた声をかけた。

「美樹さん。何か悩んでることがあったら言って?あたしじゃ頼りにならないかもしれないけど、できることがあったら何でも力になるから」

美樹は目をパチパチと瞬きさせ、香をジッと見つめて・・・みるみるうちに笑顔になる。

「ホント?香さん、力になってくれる?そうしてくれると助かるんだけど」
「えっ?あの、あたしでできることなら・・・」

控えめにそう言った香に、美樹はクスッと笑って一言。

「大丈夫」

今、ちょうど香以外に客がいないこともあり、美樹がカウンターを出てきて、香の隣に座った。
そして、香に話し始めた―――。



****



「ねぇ、撩」
「んあ?」

香がキャッツから帰ってきて、麦茶を飲んでいた撩に話しかける。

「あたし、キャッツでバイトすることになったから」
「あ、そう・・・・・・って思わず聞き流しそうになったけど、何だって?キャッツでバイト?!そんな話聞いてねぇぞ」
「うん、今日っていうかさっき、急に決まったことでさ。あたしもちょっとビックリしてるんだけど」
「はぁ?」

撩は一気に飲み干したコップをテーブルに置いて、眉を思いっきり顰める。
香もどこか把握しきれていないようで、少なからず困惑しているようだ。

「で?何でそうなったんだよ」
「あ、うん」

香が話し出そうとしたところで「あ、ちょい待ち」と撩がそれを止める。

「何よ」
「その前にコーヒー。飲みながら聞く」
「もうっ」

そう言いながらも、香はコーヒーの準備をする。
淹れながら、香はまだ首を傾げる。

・・・一体、何がどうなってこうなったのかしら。

そう思いながら、撩がいるソファへコーヒーを運び、ローテーブルにそれを置く。
それを持って、一口飲んだ撩は、カップをテーブルに戻す。
そして、コホンと一つ咳払いをする。

「それで?何でそうなったんだ?」

さっきと同じ質問をする。

「うん。それがね?」





・・・美樹が何か考えてるようだったから、香が何かできることがあったら言って、と言ったら、じゃぁ・・・とにっこり笑顔でこう言い放ったのだ。

「香さん、ウチでバイトしない?」

んん?と香も驚いたものの、美樹が話すところによると。
テレビでスイーツ特集をやっていて、それを観た海坊主が独自のアレンジを加えていくつかスイーツを作った。
美樹が早速食べよう、と準備をして、まさにその試作品を食べようか、という時に、汗をかきかき、コーヒー豆を仕入れる業者がやってきて、ついでだ、とできたてのそれを出したら、その美味しさに感動したらしく、これを客に出したらどうだ、と言いだして。
なんでも甘いもの好きなその業者の息子が専門学校に通っているのだが、修行する店がない、とかで、よかったらここでちょっとでもいいから修行させてくれ、とか言いだして、ますます困惑した海坊主と美樹。
スイーツは店には出さない、と言っていた海坊主だが、期間限定で出したらどうか、と言われ、それでも渋る海坊主に交換条件を出してきた。

―――今度、珍しい豆をキャッツに仕入れる、というのだ。

それを持ってきてもらい、豆を挽いて淹れると、なんとも香ばしい、いい匂いが鼻孔を擽る。
一口飲んだ時、思わず海坊主と美樹が顔を見合わせたほどに美味しかった。
ニヤリと笑う業者に、白旗を振ったのは海坊主で、結局、業者の息子と友人数名をバイトとして雇い、期間限定でスイーツ祭りをすることになってしまったのだ・・・。





「というわけで、接客が足りなくなるんじゃないかってことで、あたしがバイトをすることになったの」
「・・・・・・」
「でね?色々準備とかあるから、早速明日から準備のためにキャッツに行くから」

呆れながら聞いていた撩は、そのままの表情で尋ねる。

「もし依頼が来てたらどうするんだ?それに、依頼の確認は誰がするんだよ。おれはしないからな」
「それは大丈夫。美樹さんも依頼があったらそっちを優先してって言ってくれてるし」
「あ、そう・・・って、そういえば、かすみはどうしたんだよ?キャッツのバイト、してるだろ?・・・ってそういや最近見ないか?」
「うん。かすみちゃんにも頼んだそうなんだけど、大学のレポートとかで忙しいんだって。それに、美樹さん達が結婚してから、住み込みだったのが出て行ったじゃない?1人暮らしを始めて、順調みたいだし」
「・・・・・・」

誰かれ構わず笑顔を振りまく香にどこぞの男が興味を持ったら・・・と考えると接客をさせたくない、と、他に何か香のバイトを辞めさせるネタが何かあったか?と考えた撩だったが、思いつかず、何も云わずに黙り込む。
眉を顰め、不機嫌そうな表情の撩に、香が不安そうな顔をして撩を下から見上げる。

「・・・ダメ?美樹さん困ってるみたいだし、いつもお世話になってるし・・・」

撩を窺うように訊く香だったが、少ししてから、ん?と思う。

「ちょっと待って?そういえば、アンタ、キャッツにもツケ溜めこんでなかったっけ?」
「・・・・・・あ」

ハッと撩がヤバい、という顔をする。
途端に香はプルプルと怒り出す。

「アンタが何を言おうと絶対にバイトするから。撩、絶対に邪魔しないでよ?」
「・・・・・・」
「分かった?」

香がキッと睨むと撩は一瞬呆然として。

「・・・はい」

撩がガクッと項垂れると、香はフンと言って、温くなったコーヒーを飲む。
チラ、と撩を見ると、まだ項垂れていて、ちょっと可哀そうになった香は、撩の頭を撫でる。

「別に来るな、とは言ってないから、来たら?海坊主さんに撩でも食べられそうなものも作ってもらえるように頼んどくし」
「・・・別に頼まなくていいよ。アイツにからかわれるってだけでも腹が立つし」
「ふーん?ま、一応、言ってみるね」

撩がフンと明後日の方向を向いて顔を逸らすと、子どもみたいねー、と香は苦笑する。
香がカップを持ってコーヒーを飲んでいると、撩がチラリと香を見て、後ろから抱きすくめる。
驚いた香が「ひゃぁっ」と声を上げる。

「ちょ、撩。何すんのよ」
「なぁ、香」

そんな香の抗議をあっさり無視して香の首筋に顔を埋める。

「・・・なぁに?」
「・・・いつもより早いのか?」
「何が?」
「朝、だよ。いつも伝言板見に行くだろ?それより早く家を出るのか?」
「へ?朝?そうだなぁ、キャッツ行く前に伝言板を見てこなきゃいけないし、ちょっと早めに家を出るかも」

香がそう言うと、撩は埋めた香の首筋に、チュ、と音を立てて吸い付く。

「キャッ・・・ちょ・・・りょう?」
「・・・だ」
「え?・・・んっ」
「・・・イヤだ」
「は?」
「だーかーら、イヤだって言ってんの」

香に触れていた撩が一瞬離れたものの、また優しく吸い付く。

「なっ・・・何、言ってんのよ。そんなこと言ったってダメなんだから」
「なんで?」
「何でって・・・もう決まったからよ」
「・・・・・・」

なんだか気に食わない。
香がバイトをするのはキャッツだと解っている。
勝手知ったる、あの店だ。
来ている客層も解っているつもりだ。
ふと、あの中で香に気持ちが傾きそうなのは・・・と考えて眉間の皺が濃くなる。

「何子どもみたいなこと言ってるのよ。大丈夫よ、ヘマはしないから」
「・・・あのなぁ、そういうことじゃなくて」
「??じゃぁ、何よ」

香が何とかして撩を見ようと首を曲げて、チラと見上げた撩と目を合わせる。
撩は、はぁ、と息をつく。

「早く出るってことは、その分、朝早く起きなきゃいけないわけで、そしたら、夜だって寝ないといけないわけだろ?」
「うん、そうね?それがどうしたの?」

キョトンとしている香に、撩はこの鈍感娘が、と首に吸い付いて、見えるか見えないか微妙な場所に跡をつけて、抱きしめた腕を身体に這わせると香が反応する。

「ひゃっ・・・や・・・だ・・・」
「おれとこうする時間が減るだろ?」
「なっ・・・」

香は一気に頬を染めて抗議の声をあげる。

「そんな・・・毎日・・・んっ・・・してる・・・じゃない」

撩はそんな香にお構いなしに身体に手を這わせ、しまいにはTシャツの中に手を滑り込ませ、しっとりと汗をかいた柔肌を楽しむ。
撩は香の耳朶をペロリと舐める。

「やっ・・・りょ・・・やめ・・・」

舌のザラリとした感触が香の身体を跳ねさせる。
甘い痺れが香の身体を駆け抜けて、離れようともがく。

「ホント・・・ちょ・・・っと・・・離れさせて・・・」
「やだ」

撩が意地悪く言うと、下着越しに香の双丘をやわりと揉む。

「・・・はぁっ・・・」

香から甘い吐息が漏れると、撩はその手を外し、香を自分へと向ける。
香の瞳は潤みながら撩を見つめ、頬は紅潮して染まって唇からは今も小さく吐息を漏らしている。
撩は堪らず香の唇に貪りつき、強く塞ぐ。

「んっ・・・」

香は息苦しそうに息を詰めるが、撩は香の後頭部を押さえ、離れられないように深く重ね合い、舌を差し入れて香の温かな舌を絡め取り、唾液すらも吸い上げる。

「んんっ・・・んんっ・・・」

香がくぐもった声を出して撩の服をギュッと掴んで揺さぶり、やっとちょっとだけ離れる。
はぁはぁ、と香は荒い息をついている中、チラリと撩を見ると、男の瞳で自分を見ているのを知り、目がかち合うと、また撩が近づいてきて、慌てて両手で撩の口を押さえる。
ふがっ、と撩が情けない声を出す。

「はぁ・・・・・・ちょっと待ってよ」

それだけ言って、少しずつ息を整える。
そして、ふと思う。

・・・もしかして、撩、拗ねてるのかな?

撩は、何すんだよ、とやっぱり子供みたいに拗ねた顔をしていて、香はこっそりとはにかむ。
なんか時々可愛いのよね、と思いながら。
そして、不意打ちのように身体を少し乗り出して、撩の肩に手を置いて、自分から撩の唇に触れるだけのキスをする。

「!」

驚く撩に、香はクスッと笑う。

「もう、拗ねないでよ。いつもの時間に来ればいいじゃない。ほら、ナンパをしてもあたしは止めないし、朝だってゆっくり寝られるし、撩も嬉しいでしょ?」
「・・・・・・いし」
「えっ?」
「何でもない」

撩がボソッと何かを言ったのだが、香は聞こえなくて訊き返したら、ふて腐れた顔してそっぽを向かれてしまった。
撩は何て言ったのかなぁ、と思ったが、まぁ、いいか、と聞き流す。

・・・そんなん全然嬉しくないし。

撩は香に聞こえないようにボソッと言ったのだが、だからと言って、口に出さずにはいられなかった。
その時、香の手が柔らかく撩の髪を一房絡めとり、クルクルと回して遊びだす。
そして、後ろから声をかけられる。

「分かった。できるだけアンタの相手、してあげるから、もう機嫌直してよ」

そう云われれば、なんだか自分がすごく大人げなく、子どもみたいだ、と感じられて、それはそれでなんだか複雑な気分だけれど、それでも、香を構いたい、香に構ってほしい、そして、香が構ってくれる、ということが撩の気分を上向かせていき、意外と単純だったことに思わず苦笑が漏れる。
でも、素直じゃない男は、

「・・・おぅ。ま、相手してやるよ」
「その言い方は何なのよ?いいのよ?別に。あたしは1人で寝ても、っていうか、そうしたいくらいだし」
「ばーか。そんなことさせるかよ」
「そうなの?」
「そうなの。だいたい、おまぁが言ったんだろ?」
「うん・・・そうだけど」
「じゃぁ、守れよ」

それだけ言うと、立ち上がり、部屋を出て行った。
残された香は、しばらくキョトンとしていたが、ふぅ、と息をつくと、冷たくなったコーヒーを飲みほして、いつ飲んだのか、カラになった撩のカップと2つ持って、台所へ向かった。

いつになく何回も快感に溺れ、強く優しく、撩と肌を重ねた昨夜から一夜明け、香は撩の腕から抜け出し、自分の部屋へと向かう。
昨日、美樹から云われた持ち物を用意する。
そして、朝食を用意して、先に食べる。
午前中は客が少ないこともあって、その時間にイベントに向けての打ち合わせをすることになっているのだ。
その前に伝言板にも行かなければいけないので、早い時間に家を出る。

家を出る前に、撩の部屋へ行って、いつもはしないのだけど、昨日の今日だし、と寝ている撩にそっとキスする。

「撩。行ってくるね」

小さくそう言うと、香の腕を撩が掴む。

「起きてたの?」
「ん。今、起きた。もう一回、キスしてくれたら起きるけど?」

撩がニヤリと笑えば、香もクスッと笑う。

「あら、あたしは行っちゃうからまだ寝ててもいいわよ」

香がそう言えば、撩がぐいっと腕を引き、香を引き寄せ、唇を重ねる。
離れてから、撩がのそりと起き上り、欠伸をしながら伸びをする。
それを見て、香は微笑む。

「じゃ、行ってくるね」
「・・・あぁ」

そして、香は家を出てから、ふぅ、とため息をついた。

「これから毎日大変ね」

と言いながら、呆れているように見せかけて、ちょっと嬉しかったりすることは、誰にも内緒だ。
今日も暑い。
今年の夏用に買った帽子をかぶり、まずは伝言板へ行くために、駅へと向かった。



「ええっ?!これ、あたしが着るの?!」

キャッツにて。
いつも通り、依頼のなかった香は、ギラギラと照りつくす太陽と、それに負けないくらいの真っ青な空を見上げて、はぁ、とため息をついて、キャッツへ向かった・・・のだけど。
そこで、美樹に接客する際の香の衣装のラフ画を見せられ、香はギョッとして目を見開いて驚いたセリフが上のそれだった。
それに対し、美樹は瞳を輝かせて楽しそうな笑顔を浮かべている。

「そうよ。ね、楽しそうでしょ?なんだか高校の文化祭みたいじゃない?」
「美樹さん・・・?」

香は思わず眉を寄せる。

「昨日、あれからずっと考えてたのよ。これ、絶対香さんに似合うから!」
「いや、そう云われても・・・」

美樹が普段の恰好でいつも接客しているため、自分もそれでいいのか、と思っていたのだ。
今日、美樹に云われて持ってきたのは白いシャツと黒パンツだ。
多少、カッチリしてるとしても、黒スカートか、持ってきた黒パンツを合わせたくらいだと思っていたのだけれど。
ちなみに、そのラフ画に描かれているのは黒パンツだ。

今日、美樹に見せられた、美樹が描いたユニフォーム?のような接客姿のラフ画は、それに色々と小物がついており、香のそれを上回り、ちょっと頬を引きつらせる。

「うん。でね?知り合いに聞いてみて、あるかどうか調べてもらってるの。だから、届いたら、香さん、試着してみてね。あぁ、楽しみv」

本当に楽しそうにウキウキしている美樹を見て、香はおそるおそる訊いてみる。

「ねぇ、その恰好、美樹さんもするの?」
「え?私?しないわよ。だって、それが似合うのは香さんなんだもの。やっぱり似合う人が着なくっちゃ」

美樹は当然、という顔をしながら告げる。
褒められてるのかな・・・?
香はガクッと頭を垂れたものの、起き上ってとりあえず、にこっと笑ってみる。

「ま、着るだけなら・・・。ね」
「そうそう。着るだけよ。着るだけ」

そう言って、もう着せる気になっている美樹を見て、苦笑した香はなんとか気を取り直して美樹にその他のことを尋ねたりしながら、和気藹々と接客担当の準備は進んでいった。

それから数日後、例のものがキャッツに届いた。
早速、それを出した美樹がうふふ、と笑いながら香のところに来る。

「香さんっ、ちょっとこっちに来て!届いたのよ。早速着てみて!」
「え・・・あ・・・」
「あ、ここ使ってくれていいから。じゃ、着替え終わったら呼んでくれる?」
「ちょ、美樹さん・・・」

香は美樹から渡されたそれを持って、美樹を呼んでみたものの、すでにお店の方に戻ってしまったみたいだ。
腕にかけてあるそれを見て、ふぅ、と息をつき、着るか、と着替えだした。

白シャツに襟にはワインレッドのクロスタイ、予備にネイビーのクロスタイもある。
その上に黒のカマーベスト。
下は黒のパンツ。
その上にタイと同じワインレッドの前掛けエプロン。
これは、他にも緑や茶、黒とあるので、その時々で変えていけばいいかな、と思う。

自分で持ってきたものは白シャツに黒パンツ。
他のは今さっき、美樹から渡されたものだ。
それらを全部着用した香は、鏡の前で複雑な表情でしばらく立って、くるっと一回転とかして自分の全体の恰好を見てみる。

・・・・・・。
やっぱり、あたし、男装してるみたいだよねぇ。

美樹の描いたラフ画を見た時からそう思ってはいたものの、やっぱり実際に着てみると、少々複雑だ。
まぁ、ここでどうこう言っても仕方がない。
美樹を呼んで、見てもらうことにした。

「美樹さーん、着てみたけど、どう?」
「あ、ちょっと待っててね。今、行くから」

そして、すぐに来た美樹が「あらっ」と弾んだ声を出して香の全体を前から後ろまで見て、目を見開いて、うふふ、うふふ、と嬉しそうに笑いだす。

「あの・・・美樹さん?」
「やっぱり香さん、最高よっ!!!その衣装、よく似合ってるわ」
「いや、あの・・・あたし、似合ってる?」
「もちろんよ!よく似合ってるわ。私の見立てはやっぱり間違ってなかったわv」

興奮している美樹を止めようとする香の声は聞こえていないようだ。

「香さんっ」
「は、はいっ」
「これで決まりねっ。バイトが始まったらこれを着てね。あ、エプロンは色違いがあってその日の気分によって楽しめそうね」
「あ・・・決まりなの?」
「そうよ?」
「あー・・・うん。解った。あ、エプロンは楽しめそうね。それはそうなんだけど・・・。ねぇ、美樹さん」
「ん?なにかしら?」

やっと、自分の話ができる、と香は美樹の正面に回る。

「ところで、なんで男装するのかしら?男装するんだったら始めから男性にバイトしてもらえばいいんじゃないの?」

香がずっと訊きたかったことをやっと美樹に尋ねると、美樹は人差し指を立ててチッチッと指を振る。

「違うのよ、香さん」
「違うって?」
「考えてみてよ?このイベントはスイーツよ?スイーツって言ったら好きなのは女性でしょ?」
「うん。だから、余計に男性の方がいいんじゃ・・・」
「何言ってるの。香さんだからお願いしたんじゃない。わざわざ知らない男性にバイトを頼むくらいなら元々やらないわよ。それに何ていうか、高校生の文化祭的なノリで真剣に楽しみたいって思った時に、折角香さんが接客してくれるんだったら、男装して接客する方が楽しそうじゃない?香さんにぜひ、着てみてほしかった衣装なのよね、実は。香さん、キレイだし、それに、ちょっと中性的っぽいじゃない?そこが香さんの魅力でもあるんだけど。だから、絶対に女性にウケると思うのよね」
「え、そう・・・かな?」

香はいまだ信じられないというように全身が映っている鏡を凝視するように見て、小首を傾げている。

「そうよ!自信を持って」
「・・・・・・」

香が、うーん、という表情をしているのを見て、美樹も小首を傾げる。

「やっぱり止める?」

そう訊かれた香だったけれど、この衣装が似合ってる、と言ってくれた美樹ににっこり笑いかける。

「ううん、やっぱりこれを着るわ。ありがとう、美樹さん。似合ってるって言ってくれて。あたし、頑張るわ。そうね、どうせやるならとことんこの状況を楽しむことにするわ。ちょっと男性っぽく振る舞ってみるのもいいかもしれないわね」

クスッと笑いながら香が言うと、美樹もクスッと笑い返す。

「こちらこそありがとう、よ。香さん。その意気で頑張って」
「ええ」

どうせなら、ということで、そのままの恰好で少しだけカウンターの外に立って動いてみることにする。
幸い、今は客は誰もいない。
カウンターの中でカップを拭いている海坊主は何も云わずに口角を上げて微笑んでいる。
それに気づいた美樹が、フフッと笑う。

「ね、ファルコン。香さん、よく似合ってるわよね?」
「あぁ」

美樹が訊けば、頷いて、2人で香を見守った。

それから、スイーツ担当のバイトの学生達とも挨拶して、日にちが決まったこともあって、昼時など、お店に来てくれる人達にチラシを作って渡したりして宣伝する。
あんまり忙しくなるとこっちが大変だから、と無理に広めなくていい、との海坊主夫妻の要望により、宣伝はキャッツの常連さんに口コミで広げてもらうだけにした。
それで、どれだけのお客さんが来るかは分からないけれど。



それからも準備を進め、海坊主達、スイーツ担当の方もほぼメニューに載せるスイーツも決まり、イベント開催が明日に迫ったそんな夜。
スイーツ祭りの情報をほとんど香から知らされていない撩は、夕食後、寛いでいる香にそれとなく尋ねる。

「なぁ、香」
「ん?」
「その・・・どうなんだ?」
「何が?」
「キャッツの祭りだよ。明日からなんだろ?準備とか・・・さ」

香が撩を見ると、ふいっとそっぽを向く撩に、香はクスッと笑い

「うん、大丈夫。こっちは準備万端よ。ちゃーんと海坊主さんにお願いして、アンタみたいに甘いものが苦手な人にも食べられそうなスイーツも用意してもらったから」
「げ。マジで?」
「うん。マジで」

撩が目を見開くと、香は楽しそうに繰り返す。

「撩もおいでよ」
「当然。働いているおまぁも見たいしな」

撩がニヤリと笑うと、香はハッとして「ダメダメ」と言いだした。

「ダメよ、ダメ。やっぱり撩は来ちゃダメ」
「なんでだよ」

来てはダメ、と云われてムッとする撩に、香はバツが悪そうな表情になる。

「うーん・・・来ちゃダメっていうか、何ていうか・・・」
「なんだよ。おれには云えないことなのかよ」
「そうじゃないんだけどね?」

あははー、と香は空笑いをして誤魔化そうとするが・・・。
撩が香をじーっと穴が開きそうなくらい見つめてくるので、それに耐えられなくて思わず目を逸らす。

「はい、目ぇ逸らしたー。何かあるんだろ?云えよ」
「ええっ?!言うの?!」
「あぁ、言えよ。その方がラクになるぜ?」

撩が意地の悪そうな笑みを浮かべ、香ににじり寄り、香は思わず後ずさる。

・・・言えるわけないじゃない。
あたしが男装する、なんて。
『かおるくん』復活だな、とかからかわれそうだし。

香がうー、と内心唸っていると、撩はさらに寄ってきて、いつの間にか、香は撩の腕の中にいた。

「さぁて、香ちゃん。なんで撩ちゃん行ったらダメなのかなー?ほら、云わないと・・・」
「ひゃんっ」

香の耳に息をふーっと吹きかける。

「やだ、撩っ。やめてよ」
「やーだね。おまぁが云わないとやめなーい」

今度は耳朶を甘噛みして、耳にちゅ、とキスをして、甘く囁く。

「なんだよ・・・香」
「っっ!やっ・・・だ・・・」

身体を捩ろうとする香だが、あっけなく撩にクルッと向きを変えられて、撩と向き合う形になり、親指で唇をなぞられる。

「!!」

指の腹は温かくて、ゾクッと甘い痺れが背中を駆け抜けていくと同時に、唇を啄まれる。
下唇を軽く挟まれたり舐められたり、優しく触れるそれは甘美で胸がキュンとなって、いつの間にか香から撩の服を掴んで、何度も重ね合った。
そのうち、スルリと舌が口内に侵入してきて、香のそれと絡まる。
目がトロンとなり、何も考えられなくなるほど、甘く優しいキスだった。

「・・・で?なんでダメ、なんだよ?」

撩の声も甘く聞こえ、その甘さに香は一瞬、身を竦めるのを撩がギュッと抱きしめる。

「・・・笑わない?」
「笑うようなことなのか?」
「・・・分からない」
「ん・・・笑わないから」
「・・・あのね?・・・あたし・・・男装、するの」
「・・・は?」

香に告げられたそれに、今まで甘かった撩の声が、一瞬、素に戻る。

「男装?おまぁが?なんで?」

撩の質問の嵐に香はパチパチと瞬きして、俯き加減になる。

「美樹さんの提案でね。そうなったのよ。・・・アンタ、どうせまた、男女みたいだってからかうんでしょ?だから、云いたくなかったのよ」
「はぁー・・・男装ねぇ。また、美樹ちゃんも色々やってくれることで・・・ってどんなサービスだっての」
「え?」
「何でもない」

撩の最後の言葉は小さくて香はよく聞き取れなくて訊き返したものの、躱されてしまう。
一方、撩は・・・

・・・ったくー。
美樹ちゃんもまた余計なことをしてくれたもんだ。
香に男装って・・・。

昔から男女問わずモテモテなことを思い出し、ガクッと頭を垂れた。

・・・あらかた、スイーツだから女の子寄せのため、か。

とりあえず、男相手じゃなくて、ホッとするものの、果たして、女相手だとどんな反応をするのか。
未知なだけに、内心でため息をつく。

「・・・行くからな」
「え?」
「だから、おまぁが何と云おうと、行くからな、明日」
「・・・うん、いいよ。もう言っちゃったし」

香が顔を上げると、はにかむ。

「だからね、こうなったら男装でなりきっちゃおうかなって思ってるんだ」
「なりきるって・・・まさか」
「男装のウエイターっていうのかな?まぁ、そんな感じで」

香が小首を傾げていると、撩は頭を抱えたくなる。

・・・なんか女が多く客として来ていて、香の一挙手一投足にキャーキャー言う光景が容易に想像できるのは気のせいか?

それはそれで、なんだか気に食わない。
撩は今度は深くキスをする。

「んっ・・・」

香がくぐもった声を上げると、ほんの少し離して、香の眼をじっと見つめる。

「ばーか」
「なっ・・・バカって・・・んっ」

香が抗議しようとしてまた塞がれた。
そのままソファに押し倒されて、甘い時間が始まる。

「ちょ・・・待っ・・・」
「ダメ」
「あたし・・・明日・・・早い・・・から」
「そんなん知らない」
「ちょ・・・」

撩は行為を続行する。
キスをしながらすでに手はTシャツの中に滑り込んでいて、頭がボーッとしながら、ふと頭に浮かんだことが撩から与えられる刺激と快感で消えてしまった。
子どもみたいだ、と思いながらも、それ以降は何かを考えることすらできずに、撩と触れる悦びと甘さと快感で、撩に身体を委ねていった。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

続きます。

【 2014/08/04 (Mon) 】 EVENT | TB(-) | CM(0)
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撩&香の一コマ♪
プロフィール

実梨

Author:実梨
シティーハンターが好きで、二次創作を始めました(^^ゞ
カッコいいリョウと可愛い香ちゃんを目指して、日常の色んな2人を描いていけたらいいな、と思ってますv
初心者なので、まだまだ未熟で駄文ばかりではありますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです♪

更新履歴
・ 8/ 24 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 7/ 18 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 6/ 16 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 4/ 22 MEMOに拍手御礼(お待たせしてすみませんでした)
・ 4/ 17 遅ればせながら香ちゃん、お誕生日おめでとうvv
・12/ 7 サイト6周年vホントにどうもありがとうございますvvv
・11/ 13 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・11/ 2 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・10/ 19 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 8/ 10 EVENTに5周年記念SS(後編)をUP&MEMOに拍手御礼
・ 8/ 4 EVENTに5周年記念SS(前編)をUP(今更ですみませんっ)
・ 7/ 13 MEMOに拍手御礼
・ 7/ 2 NOVELをUP
・ 6/ 1 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 5/ 23 NOVELをUP
・ 5/ 5 MEMOに拍手御礼
・ 4/ 10 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 3/ 31 香ちゃんお誕生日おめでとうvv
・ 3/ 26 撩ちゃんお誕生日おめでとうvv
・ 3/ 23 NOVELをUP
・ 3/ 14 MEMOに拍手御礼
・ 3/ 2 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 2/ 19 NOVELをUP
・ 2/ 10 SSSをUP
・ 2/ 1 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 1/ 22 MEMOに拍手御礼
・ 1/ 10 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・ 1/ 5 どうぞ2014年もよろしくお願いしますvNOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・12/ 31 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・12/ 29 MEMOに拍手御礼
・12/ 25 NOVELをUP
・12/ 24 NOVELを2話分UP
・12/ 15 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・12/ 7 サイト5周年~♪ホントにどうもありがとうございますvv
・11/ 28 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・11/ 18 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
・10/ 20 MEMOに拍手御礼
・10/ 5 MEMOに拍手御礼
・10/ 4 NOVELをUP
・ 9/ 23 NOVELをUP
・ 9/ 16 LINKに素敵サイト様1件追加!&MEMOに拍手御礼
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  ・ 8/ 15 NOVELをUP&MEMOに拍手御礼
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