翌日からは外での撮影だった。
だが、ここ数日はマナの周りでも何も起きず。
まぁ、マナはおれにべっとりくっつき、進藤は何かと香に話しかけてはいたけど、平和な日々だった。
ただ、1つをのぞいては・・・。
数日前、進藤から思わぬ告白を受けたおれは、それからどうにもヤツのことが気になって仕方ない。
おれはマナと共にいることが多いし、進藤は香と一緒にいることが多い。
視線は自然と香に向き、ヤツの動向を確認してる自分がいた。
今は、休憩時間で、マナは宗田というカメラマンの男と話をしている。
この宗田という男、実によくしゃべる。
自分の彼女のことを自慢げに話したり、マナとおれのことを聞いてきたり。
正直、ウザい。
だが、そうも言っていられないので、適当に聞き流していたのだが―――。
彼女の写真を携帯の待ち受けにしている、というのでその写真を見せてもらえば・・・・・・。
茶色のストレートのショートカットで、カメラ目線でにっこり笑っているその笑顔は、美人で誰かを彷彿とさせる。
んー・・・・・・あ。
・・・香だ。
そうだ、香に似てるんだ、この彼女。
それに気付いた宗田は、ニヤリ。
笑っておれの絡みつく。
「おれの彼女。進藤くんと一緒にいるあの娘とちょっと似てると思わないか?あの娘、フリーかなぁ。・・・はっ。おれとしたことが。大事な彼女がいるのを忘れてた?。あっはっは」
「・・・・・・」
何が、あっはっは、だ。
もし、お前が敵だったら、3秒後にはあの世の人間になってるとこだぜ。
香は無防備に笑顔を振りまいてるし。
進藤の他にもスキあらば近づこうとしているヤツがいるんだぞ?!
それを・・・。
だから、釘をさしておいた・・・つもりが。
「あー。なんか槇村さん、彼氏いるみたいですよ?」
「えー?!うそ!ホントですか?!香さん、彼氏いるんだ?。でも、そんなカンジじゃなかったけどなぁ」
・・・げ。
余計なヤツが聞いてた。
女ってヤツはこういう話題が好きだから、食いついて来てる。
マナの顔はどこか嬉しそうだ。
だが、宗田には効いたみたいで。
「えー・・・。彼女、彼氏いるんだ。ショックだなぁ。・・・あ、じゃぁお友達として仲良くしとこう。うん、そうしよう」
「・・・おい」
思わず声に出していた。
「え?・・・今、何か言った?」
「い、いえ。何も」
「あ、そう?ね、君も来ない?親しくなっとけば?ってマナちゃんがいるからダメだね?。あはは」
実によく笑う男だ。
だが、進藤と2人きりにさせないためにも、これはいいかも?
「いえ、おれも行きます。マナはどうする?」
「えー。私は・・・いいです」
「そう?彼女も美人だけど、マナちゃんも美人だからね」
宗田は訳の分からないフォロー?をして、おれを連れて香と進藤のもとへ向かった。
「進藤くん」
「あ、宗田さん。どうしたんですか?何かあったんでしょうか?」
「ん?いやいや、そうじゃなくてさ。君とこの間から一緒にいるそこの美人な彼女を紹介してもらおうと思ってさ」
「あぁ、香さんのことですね。こちら、槇村香さん、僕のアシスタントをしてもらってる方です。香さん、こちら、カメラマンの宗田さんです」
「どうも、宗田です。マナちゃんのカメラマンしてます」
宗田がお辞儀をすると、香もにこっと笑って丁寧にお辞儀をしている。
「初めまして。槇村です。まだ始めたばかりなので、色々と教えて下さいね」
「そりゃぁ喜んで。こんな美人さんからだったらなんなりと、だよね?進藤くん」
「え・・・。ま、まぁ」
進藤は、顔を赤くさせている。
けっ。
なぁに、頬を染めてんだ。
女の子だったら可愛いけど、男がしても気持ち悪いだけだぞ。
「君も自己紹介しといたら?」
宗田の言葉に、おれは、あぁ、と言う。
「あ、おれはもう知ってるから」
「え?何?もう知ってるの?素早いなぁ」
知りすぎてるほど知ってるっての。
「・・・そうじゃなくて」
なんと言っていいものだろうか。
ただ、マナから聞いてるので、とはなんとなく言いたくない。
おれ達の関係はそんな薄っぺらいものじゃないから。
・・・進藤の視線を感じるが、それを無視して、香と目を合わせる。
久々に目が合ったような気がする。
すると、香がふんわりと笑ってくれた。
とりあえず、それを見れただけでよし、とする。
「そうじゃなくて?」
宗田がしつこく聞いてくる。
もう、答える気が失せていたおれは、話を逸らす。
「・・・ま、いいじゃないですか、それは。あ、呼ばれてますよ?」
上手く逸らせたとは思っていない。
だが、ちょうど上手い具合に宗田が呼ばれたのは事実。
ちぇ、と言いながら、「じゃぁね」と香に言って去っていった。
ついでに進藤も呼ばれろ、と思ったら、これまた都合良く、誰かに呼ばれた。
「進藤くーん、ちょっと来てぇ」
「・・・はーい」
おれに会釈して、名残惜しそうにこれまた去っていく。
ラッキーとばかりに香に話しかける。
「ふぁ?ぁ。疲れるな」
「うん・・・そうね」
何気ない会話だったけど、こんなちょっと話せただけでどこか安心するから不思議だ。
イライラしていたものが少しずつとれていく。
「撩。そっちはどう?怪しい人、いた?」
「いんや、いないね。そっちはどうだ?」
「・・・ううん、いないわ」
「そうか」
お互い缶コーヒーを片手に、忙しなく動いているスタッフを眺める。
香が缶を弄んでいる。
「・・・なんか久しぶりだね、2人で話すの。今ってマナさんと進藤さんがいるから、2人きりになれる時間がほとんどないもんね」
「そうだな。マナはべったりだし。すっかり恋人のフリが板についたって感じだな」
「そうね。マナさん可愛いものね。撩も嬉しいんじゃない?」
香がおれを見上げる。
「んー、まぁ悪い気はしないが、それまでだ。もうおれは我慢の限界なんだよ」
「我慢って?何の?」
・・・・・・あら。
おーい。
おれが何を我慢してるか分かってないのかよ?
おれはもう限界が近いんだ。
見る女の顔がお前に見えるくらいにお前に触れたくて、我慢の限界なんだよ。
禁断症状か?ってぐらい。
そこに、ふわっと香る匂いが・・・。
くんくん。
それを辿っていくと、行きついた先は香だった。
香の髪からシャンプーのいい匂いがしているのだ。
あ・・・・・・。
思わず吸い寄せられるように、香に近づきそうになる。
意識して出しているものではないから、香としては無意識だ。
これはヤバいぞー。
進藤は香のこの匂いを嗅いでるわけだよな。
男だったらクラッと眩暈がする香りのはずだ。
・・・非常にマズい。
早急にコレを解決しなきゃ香が進藤の餌食になっちまう。
キッと周りを睨んでみる。
それに気付いた香がぎょっとしている。
「ちょ、ちょっと撩。どうしたのよ。そんなコワい顔をして。何睨んでるのよ」
「いいからお前は黙ってろ」
誰なんだ?
誰がマナを脅してんだよ?!
さっさと出てこい!!
おれは、犯人を早くつかまえたくて、周りを一巡して見まわした後、もう一度香を見る。
モデルの撮影現場に行くのだから、とイマドキのカッコをしているのだが。
おれから見て、ココにいるどのモデルよりも香の方がキレイに見える。
スラッと背が高く美人で、なおかつ、周りに気を配れる。
こんな女、男共がほっとくハズがない。
あぁ。
ため息をつきたくなってきた。
ついてもいいよな?
・・・はぁ。
思わず出たため息。
「ちょっと何ため息ついてんのよ。あともうちょっとで撮影終わるんでしょ?それまでの我慢よ」
「・・・それ、激しく違うんだけど」
「あれ?違うの?」
香が首を傾げていると、どこからか「あーっ!」と大きい声が聞こえてくる。
声がした方向を見ると、宗田がおれ達を指して走ってくるではないか。
その声に気付いたマナも「あーっ!冴羽さんっ!」と言ってこっちに向かってくる。
一体、なんなんだ?!
近くまで来た宗田が開口一番に。
「なんだよ。なんだかんだで結局、仲良くなってんじゃねぇのよ。ズルいじゃん。おれも入れてよ。ね?
・・・おれ、君みたいなタイプ、好みなんだ」
と香を口説いている。
香は目をぱちくり、とさせている。
マナも負けじと。
「冴羽さん。もうそろそろ戻って来てよ。もうちょっとで撮影が始まるって」
と、腕を引っ張る。
おいおい、嫉妬か?
まぁ、それはいいけど、撮影くらい1人で行ってくれ。
宗田は宗田で、香にあれこれ話しかけている。
「ねぇねぇ。彼氏っているの?マナちゃんの彼が、彼氏がいるって話してたんだけど」
―――げ。
ばっ、ばか!
てっめぇ!!宗田!!
何言ってんだよ!!
香はきょとんとした後、複雑な顔をしている。
そんなこと言ったら―――
おれは香が言うことを予想して焦っていたら・・・。
向こうへ連れて行こうと、マナがおれと宗田の腕を引っ張っている。
セーフ!!
「・・・・・・あっ、そろそろ時間みたいですよ?。―――じゃ、行こうか。マナ」
香と宗田を引き離すチャンスにおれは内心ガッツポーズをとり、マナと宗田の後ろに回り、2人の背中を押して、
撮影現場に戻っていった。
途中、振り返って香を見たら。
香はやっぱり複雑な表情をしていた。
離れるのが惜しいような、でも行かなきゃいけないよね・・・みたいな?
その瞳が切なげに揺れて、おれもだよ・・・と思い、苦笑いをする。
それを見た香も、少し笑みを見せて、苦笑していた。
・・・その香の表情に、思わず下半身が反応しそうになるのを堪えながら戻る。
あー、もう。
眩暈がしそうなぐらい限界なんだけど?
早く解決しないとな。
その戻り途中。
そういえば・・・と言って宗田がマナに話しかけた。
「マナちゃん。そういえば、アレ、どうなったの?」
「あ。アレ、ですか?」
「そう、アレ」
だいたい分かってはいるが、一応聞いてみる。
「アレってなんだよ?マナ」
「うん、雑誌のかけもちの件・・・」
「え・・・?!それ、極秘なんじゃなかったっけ」
マナにこっそり聞いてみる。
そしたら・・・
「うん。でも、宗田さんって話しやすいし、色々相談にものってもらってるから話したんだ。あ、でも、後、スタイリストの静香さんとメイクの佐智さんでしょ?それに、坂下さんも知ってるわよ」
「はぁ・・・」
極秘の割にはずいぶんと色んな人間が知ってるんだな。
「で?後は誰が知ってるんだ?」
「後?後は・・・ウチの事務所の社長と、ここの現場監督さん・・・ぐらいかな」
そうですか。
それは多人数が知ってることで―――。
・・・・・・・・・。
頭が痛くなってくる。
この痛みは、決して寒さだけで起きたものではないだろう。
「・・・で?もう話してもいいかなぁ?」
宗田がおそるおそる話に参加してくる。
「あ、あぁ。いいですよ。・・・あ、そうそう。アレですけど、先方からの連絡待ちなんです。こっちはOKでも向こうがダメなら仕方ないですから」
「ふーん、そうなんだ」
なるほど。
「後もう1つ。その中に、家に手紙が届いてから話した人間はいるのか?」
「いいえ、いません。みんな、手紙が来る前です」
きょとん、としてマナが答える。
「・・・・・・」
おい、もしや、今、なんでおれ達がここにいるかも忘れてんじゃないだろうな。
なんだか不安になってくる。
マナは、今の状況を忘れたようにおれとの恋人気分を楽しんで、はしゃいでるし。
最近の女の子は何を考えているか分からないところがあるからなぁ。
「マナちゃんには、この雑誌でずっと頑張ってほしいなぁ」
「そうですよね。宗田さんにはお世話になってますし。でも、この雑誌に出ないわけではないので、もし、掛け持ちすることになっても、またお仕事は一緒にできますよ」
「それはそうなんだけどさ・・・マナちゃん、可愛いし、おれのお気に入りなんだ」
「わ♪嬉しいです。ありがとうございます、宗田さん」
2人は楽しそうに話をしている。
どうやら宗田はマナに掛け持ちはしてほしくないみたいだ。
ここで、監督から声がかかり、2人は行ってしまった。
さて。
どうする?と思い、結局、香達のいるところへ戻った。
「撮影、始まったの?」
「あぁ。そうみたいだ」
「早く終わるといいね。待ってるだけの身は寒いものね」
「あぁ」
進藤はおれと逆の香の隣にいたが、構うことなく香に、さっき話していたマナの話を耳打ちした。
「え、そうなの?じゃぁ、その中にいる可能性があるってことよね?」
「あぁ。そこから広がってなければな」
「・・・極秘って言ってたのに、その意味あったのかしらねぇ」
香がぼそっと呟いた。
まったく、その通りだ。
これが進藤の耳に届いたかは疑問だが。
外の寒さもなんのその、モデルのその根性はスゴいものがある。
ポーズをとって笑顔を見せ、何枚も撮っている。
さすがの宗田も真面目にやっているようだ。
ここで・・・
プルルル?♪
携帯の着信音が鳴り響く。
ハッとなって進藤が慌てて携帯を取り出し、話し始める。
その電話は―――
NEXT++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
続く?。
もしかしたら、あと2、3話で終わるかも?!
そうなればいいなぁ(*^_^*)
長くなってすみませんm(__)m
ここぐらいから話がぎゅっと詰め込まれてる感がアリアリですけど、そこは見逃して下さい(笑)
今頃になって、新たな人物、登場してるし(笑)??
・・・あ、あと、今のうちに言っときますね。
たぶんいないと思いますけど、事件を重視して読んでいる方がもしいらっしゃったら、どうもすみません。
今のうちに謝っておきますね。
事件はあまり重視してなかったりするので・・・Σ( ̄ロ ̄lll)
しかも、もう犯人?が誰か、だいたい分かっちゃいますよね(^^ゞ
事件モノは難しいし、おまけみたいなものなので、あまりそこは重視しないでいただきたいです?(^^ゞ